中小企業のものづくり基盤技術の高度化に関する法律第三条に基づき定める
特定ものづくり基盤技術高度化指針について
中小企業のものづくり基盤技術の高度化を図り、中小企業が行う特定ものづくり基盤技術に関する研究開発及びその成果の利用を促進する措置を講ずるため、中小企業のものづくり基盤技術の高度化に関する法律(以下「法」という。)が平成18年4月26日に公布されました。このため、めっき技術に関する技術高度化指針は次のとおり定めることとなりました。
○制定の内容
この指針は、中小企業のものづくり基盤技術の高度化に関する法律(以下「法」という。)第3条の規定に基づき、特定ものづくり基盤技術の高度化全般にわたる基本的な事項(第1号)、個々の特定ものづくり基盤技術ごとに達成すべき高度化目標(第2号)、個々の特定ものづくり基盤技術ごとに高度化目標の達成に資する特定研究開発等の実施方法(第3号)及び個々の特定ものづくり基盤技術ごとに特定研究開発等を実施するに当たって配慮すべき事項(第4号)を定めるものです。また、経済産業大臣は本指針に照らし、特定基盤技術研究開発等計画の認定を行うこととなります。
○めっきに係る技術に関する事項
1 めっきに係る技術において達成すべき高度化目標
我が国製造業の国際競争力の強化及び新たな事業の創出を図るためには、めっきに係る技術(以下単に「めっき技術」という。)を有する川上中小企業者(以下「めっき事業者」という。)は、川下製造業者等のニーズを的確に把握し、これまでに培ってきた技術力を最大限に活用するとともに、当該ニーズにこたえた研究開発に努めることが望まれる。製造業並びに燃料電池、情報家電及びロボット等新たな事業分野に属する川下製造業者等の抱える課題及びニーズ並びにそれらを踏まえた高度化目標を以下に示す。
(1)燃料電池に関する事項
@川下製造業者等の抱える課題及びニーズ
燃料電池は、使用される電解質の種類により固体高分子形燃料電池(PEFC)、りん酸形燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)、固体酸化物形燃料電池(SOFC)に分類される。燃料電池は、近年市場化に向けて大きく進展しているが、PEFC、PAFC、MCFC及びSOFCそれぞれの特徴を生かした、それぞれの用途開発が進められつつある中で、燃料電池における技術開発において、以下の課題が具体化してきている。
ア.低コスト化
イ.長寿命化
ウ.高機能化
A高度化目標
燃料電池の主な構成要素は、電極、電解質及びセパレータであり、それぞれの部材の他、水素フィルター等にもめっき技術が使用されている。これらのめっき技術に求められている高度化目標は以下のとおりである。
ア.白金等希少金属の使用量削減のためのめっき技術の改良及び向上並びに当該白
金等希少金属に代替する材料によるめっき技術の開発
イ.耐食性の付与及び向上
ウ.エネルギー効率及び信頼性の向上
エ.電気伝導性の付与及び向上
(2)ロボットに関する事項
@川下製造業者等の抱える課題及びニーズ
これまでロボットは、いわゆる「産業用ロボット」として産業界、特に製造の現場である工場において利用されてきた。しかし今後は、ロボットが活躍する場を非製造業分野や民生分野に拡大していくことが期待されている。また、産業用ロボットについても、製造業の生産形態が少品種大量生産から多品種変量生産へシフトしたことにより、柔軟性のある組立工程に対応し、人間と協働できる次世代の産業用ロボットの導入が必要とされており、技術開発とともに、ロボットの信頼性や安全性を更に確立するための技術的な課題を解決することが必要である。
ロボットを構成する部材のうち、表面部材・骨格用構造材、駆動部部材・駆動用構造部材及び制御装置・センサ部材等の随所にめっき技術が使われているが、これらのめっき技術に関し、以下の課題が具体化してきている。
ア.信頼性及び安全性の向上及び確立
イ.ダウンサイジングに資するめっき技術の向上及び開発
A高度化目標
ロボットの活用範囲の拡大、信頼性・安全性の確立等のため、めっき技術に求められている高度化目標は以下のとおりである。
ア.装飾性の向上並びに耐摩耗性及び耐久性の付与及び向上(主に表面部材・骨格
用構造材を対象とする。)
イ.電気伝導性、耐摩耗性、耐食性、耐熱性及び潤滑性の付与及び向上(主に駆動
部部材・駆動用構造部材を対象とする。)
ウ.電気伝導性、密着性、はんだ付け性、耐食性、耐摩耗性及び抵抗特性の付与及
び向上(主に制御装置・センサ部材を対象とする。)
(3)情報家電に関する事項
@川下製造業者等の抱える課題及びニーズ
「新三種の神器」として市場を広げている情報家電が、さらに消費者のライフスタイルのイノベーションをもたらすためには、ブロードバンドや携帯電話等の通信インフラとの融合が必要とされており、そのため、情報家電の基盤となる次世代半導体技術、液晶パネルや音声認識・センサーデバイス等の入出力デバイスの低消費電力・高機能化技術、大容量コンテンツを扱うことを可能とする光ストレージ・光ネットワーク技術、組込みソフトウェア等の技術開発が求められている。
情報家電においては、半導体関連部材、素子・センサ部材、光学部材、記録部材及び実装部材等の随所にめっき技術が使われている。これらのめっき技術に関し、以下の課題が具体化してきている。
ア.半導体本体及び半導体基板の高機能化
イ.ダウンサイジングに資するめっき技術の向上及び開発
A高度化目標
@の課題及びニーズを踏まえた、めっき技術に求められている高度化目標は以下のとおりである。
ア.電気伝導性、密着性、はんだ付け性及び耐擦傷性の付与及び向上(主に半導体
関連部材を対象とする。)
イ.電気伝導性、低接触抵抗、耐食性、はんだ付け性、耐摩耗性及び抵抗特性の付
与及び向上(主に素子・センサ部材を対象とする。)
ウ.光反射性及び反射防止性の付与及び向上(主に光学部材を対象とする。)
エ.磁性の付与及び向上(主に記録部材を対象とする。)
オ.装飾性、耐候性、難燃性及び電磁波シールド性の付与及び向上(主に実装部材
を対象とする。)
(4)自動車に関する事項
@川下製造業者等の抱える課題及びニーズ
自動車に対する燃費規制、排ガス規制等の環境規制は逐次強化されており、自動車産業では、環境配慮技術が事業者の競争力を大きく左右する状況となっている。また、電子制御技術やITS等車におけるIT利用を高める技術が、安全性能、快適性能、環境性能等を飛躍的に高めることにより、大きな市場に発展する可能性がある。
自動車においては、エンジン部分、電装品・電子部品及び計器類、駆動・伝導及び操縦装置部品、懸架・制動装置部品、車体部品・用品等、随所にめっき技術が使われている。これらのめっき技術に関し、以下の課題が具体化してきている。
ア.電装部品及び電子部品における半導体デバイスの高機能化
イ.ダウンサイジングに資するめっき技術の向上及び開発
ウ.外板、内板、ピストン及びエンジン部品等の長寿命化
エ.環境配慮に資するめっき技術の開発
A高度化目標
@の課題及びニーズを踏まえた、めっき技術に求められている高度化目標は以下のとおりである。
ア.耐摩耗性、耐焼付性、潤滑性、耐食性及び防錆性の付与及び向上(主にエンジ
ン部品を対象とする。)
イ.電気伝導性、耐食性、防錆性、はんだ付け性、耐摩耗性及び密着性の付与及び
向上(主に電装品、電子部品及び計器類を対象とする。)
ウ.耐摩耗性、耐焼付製、耐食性、防錆性及び潤滑性の付与及び向上(主に駆動・
伝導及び操縦装置部品を対象とする。)
エ.耐食性、防錆性、耐摩耗性及び耐焼付性の付与及び向上(主に懸架・制動装置
部品を対象とする。)
オ.耐食性、防錆性、耐摩耗性及び装飾性の付与及び向上(主に車体部品及び車体
用品を対象とする。)
カ.鉛、六価クロム及びシアンを用いないめっき技術の改良及び開発
2 めっき技術における高度化目標の達成に資する特定研究開発等の実施方法
1に示しためっき技術に対する川下製造業者等の課題及びニーズをみると、プリント回路基板や半導体本体等のダウンサイジングや、部材性能の高機能化等のための、既存のめっき技術によって付加される機能の更なる高度化が求められている。高度化が求められている具体的な機能としては、電気伝導性、耐食性、耐熱性、耐摩耗性、潤滑性、密着性及びはんだ付け性等があげられる。
また、国際的に環境に影響を及ぼす化学物質の使用が禁止される方向にある中で、環境配慮についても、めっき事業者が取り組んでいかなければならない重要な課題となっている。具体的には、欧州におけるRoHS(Restriction of the Use of Certain Hazardous Substances in Electrical
and Electronic Equipment)指令及びELV(End of Life Vehicles)指令による規制を始め、中国版RoHS(電子情報製品汚染防止管理弁法)等、各国における有害物質フリーの要請により、六価クロムや鉛等を含む電気電子機器等の製造、販売及び流通が禁止されることとなり、かかる規制に対応した技術が求められている。例えばクロムめっきは、耐食性や耐摩耗性に優れるため、電気電子機器等の様々な部品に使用されているが、六価クロムの残留リスクがあることや、めっき作業従事者の労働安全を確保する必要があることから、めっき事業者には、六価クロムフリーのめっき技術の開発が求められている。また、鉛については、鉛とスズとの合金であるはんだが接合材料として広く使用されているが、はんだとしての基本的性能(はんだぬれ性、接合信頼性及び耐ウィスカ性)を有する鉛フリーはんだめっきの技術の開発が求められている。さらに、鉛は無電解ニッケルめっきにおいて添加剤として使用されるが、めっき工程で皮膜中へ混入することから、鉛フリーのめっき薬液の開発等、最終製品及びその廃棄物の含有物質を考慮するだけでなく、製造工程においても、有毒物質や環境汚染物質を用いないプロセスの開発が求められる。
これらを踏まえると、めっき技術に求められている研究開発は、ダウンサイジング、高機能化及び環境配慮に資する研究開発に集約される。
(1)ダウンサイジングに対応した研究開発の方向性
@微細加工に資するめっき技術の開発
樹脂表面改質及び金属イオンの吸着を利用した微細配線の形成に資するめっき技術の研究開発
A高密度実装の実現に資するめっき技術の開発
三次元実装に資するめっき技術の研究開発
B超微小な部品や超微細形状に組成や厚さを制御した任意の金属を析出させるめっき技術の開発
MEMS(Micro Electro Mechanical System)の製造に適用可能な、めっき技術及び電鋳めっき技術を用いたマイクロマシニング技術の研究開発
(2)高機能化に対応した技術開発の方向性
@めっき皮膜性能の向上に資するめっき技術の開発
ア.多機能な部品に対応できる、機械的特性、磁気特性、電気的特性、触媒性能及
び放熱性等、様々な新規性能を付与するためのめっき技術の研究開発
イ.皮膜の耐食性、耐摩耗性及び密着性等の向上を目指しためっき技術の研究開発
(環境配慮のための代替技術開発を含む。)
A成膜技術の改良に資するめっき技術の開発
ア.部材の高集積化に対応した、複雑形状の材料の表面に均一に薄膜を形成するた
めのめっき技術の研究開発
イ.生産性の向上や、めっき浴の組成変化による膜質の不安定性の改善等を目的と
した、めっき皮膜形成の高速化に資するめっき技術の研究開発
(3)環境配慮に対応した技術開発の方向性
@製品中の有害物質フリーに資するめっき技術の開発
ア.六価クロム及びシアンを用いないめっき技術の開発
イ.鉛を用いないめっき薬液に関する研究開発
Aめっきに係るプロセスの環境負荷低減に資するめっき技術の開発
廃液の削減、有害化学物質を使用しないめっきプロセスに関する研究開発
3 めっき技術における特定研究開発等を実施するに当たって配慮すべき事項
(1)川上中小企業者において留意すべき事項
@研究開発体制に関する事項
めっき技術は、川下製造業者等のニーズに対応して進歩していること、かつ設備メーカー、薬液メーカー等の協力によって成立していることから、研究開発体制の構築に当たっては、めっき事業者が単独でめっき技術に係る研究開発等を進めるだけでなく、めっき技術に関わる産業が連携することも考慮すべきである。また、研究開発内容に独創性を持たせ、かつ研究開発速度を高めるためには、事業者間の連携に加え、公的研究機関や大学等の学識者と連携することも考慮すべきである。
A人材の確保・育成に関する事項
めっき業は、我が国の先端産業を支える重要な産業であるにも関わらず、社会的な認知度が低いこと等から、人材を確保することが困難な状況にある。このため、川下製造業者等のニーズに対応した研究開発を進めるためには、例えば、川下製造業者等や設備メーカー、薬剤メーカーへ人材を派遣する、川下製造業者等や設備メーカー、薬剤メーカーから専門性を有する定年退職者を受け入れる、といった人材の交流を図ることや、業界誌や専門誌の購読、論文や特許の参照、関連する学会やシンポジウムへの参加等を通じた川下製造業者等の課題やニーズを把握できるような人材の確保・育成に努める必要がある。また、専門性を有する人材から助言を受けることも有効である。
B技術及び技能の伝承に関する事項
めっきは化学反応による加工であるため、そのプロセスを機械化・自動化することが容易である。しかしながら、川下製造業者等のニーズに対応した研究開発を進める上では、めっき技術に係る化学反応を正確に理解する必要があること、また、めっき浴を適切に管理しながら、めっきの対象となる材料や部品の表面形状、その回転方法等、様々な条件を考慮しなければならない等、個別の技術者の知見や技能に依存することも多いことから、川上製造業者等は、めっき技術や技能を若い技術者に継承させる際には、かかる知見や技能についても正確に継承させるよう留意すべきである。なお、技術や技能の継承に当たっては、個々のめっき事業者が自主的に努力をするとともに、関連する業界団体、公設試験研究機関が実施するめっき技術コンクール等の機会を活用してめっき技術や技能の向上とその継承に努めることが求められる。
C設備投資に関する事項
めっき事業者は、川下製造業者等のニーズに対応しためっき技術の開発に必要な設備投資を、戦略的に実施していくよう留意すべきである。具体的には、自社でめっき皮膜性能をチェックできるよう、皮膜の分析、観察及び評価のための装置等の導入等があげられる。
D資金の確保に関する事項
川下製造業者等のニーズに対応しためっき技術の研究開発を進めるには、設備投資が必要となる場合があるが、民間金融機関から資金を調達することが容易ではない場合がある。このため、めっき事業者は、国や地方公共団体による支援制度、政府系金融機関による低利融資制度等を有効に活用するとともに、顧客である川下製造業者等との連携や、組合を通じた共同出資等により必要な設備投資を行うことも考慮すべきである。
E知的財産に関する事項
めっき事業者は、特許の出願や取得のノウハウ、人材、資金が不足している等から知的財産権を取得できていない場合が多い。しかしながら、めっき事業者が持続的な経営を行うには、自社が有するめっき技術に関する知的財産を認識し、自らの経営基盤として位置づけることが重要である。
F支援制度の有効活用に関する事項
めっき事業者は、技術開発を行う上での資金、知的財産に関する知識、人材等の不足を補うため、各自治体に所在する産業振興財団の支援制度等を有効に活用することを考慮すべきである。
G低コスト化に関する事項
燃料電池、ロボット及び情報家電といった新たな産業分野では、製品の実用化や市場の拡大を図る上で、低コスト化が課題となっている。めっき事業者においても、川下製造業者等のニーズに応じ、低コスト化への取組についても、可能な限り検討すべきである。
(2)川下製造業者等において配慮すべき事項
@取引慣行に関する事項
川下製造業者等では、自社のニーズに対応するためのめっき事業者の研究開発に対して、技術開発が成功した際に、成功報酬として対価を支払うという取引慣行がみられたが、めっき事業者の独創性を活かし、より高い技術開発目標を実現するためには、技術開発という行為自体に対価を支払うという取引慣行についても、可能な限り検討すべきである。
A必要な情報の提供に関する事項
めっき事業者の多くは、川下製造業者等から提示される図面に示された仕様に基づき、精確に部品等を加工することが求められてきた。このため、めっき事業者には、自社が加工した部品等の最終製品における用途について情報が提供されず、自社が提供するめっき技術が付与する機能の改善の方向性、更には川下製造業者等が求める技術の方向性を的確に判断し、把握することができない状況にあった。一方、先端的な分野では、技術の専門化や高度化が進んでいるため、川下製造業者等においても、単独で技術開発の方向性を見出すことは難しくなっており、川下製造業者等とめっき事業者との研究開発等における連携が重要となってきている。このため、川下製造業者等においては、自社のニーズに対応した研究開発をめっき事業者に行ってもらうため、必要な情報を積極的に提供していくよう配慮すべきである。
以 上